わたしとあなたのありのまま ‥3‥





その日の夜、10時過ぎぐらいに携帯の着信音が鳴りだした。

反射的に椅子から滑り降りて、学校の規定鞄の中へ手を突っ込んだ。そこに入れっぱなしだった携帯電話を探り当て、そして取り出す。


自分の部屋で珍しく課題に取り組んでいたんだけど、着信者の名前を目にした途端、課題のことなんかどうでも良くなった。


はやる気持ちを意識的に落ち着かせて電話に出た。

「もしもし……冬以?」

「うん」

電話の向こう側の冬以が小さく頷く。ほんの少しの間を置いて、再び冬以が口を開いた。


「昨日、電話した?」

「うん、した」

「ごめん、その時レッスン中で……」

「いいの、わざわざありがとう」

「何が?」

「冬以の方から折り返し掛けてくれて」


何だか余所余所しいのは、当然と言えば当然なんだけど。でもすごく、この空気が重たく感じた。



「そっか。間違って掛けてきたんじゃないかなって思った。だから掛け直そうかどうか随分迷っちゃって。遅くなってごめん」

ふっと口から空気を漏らす音が聞こえ、冬以の苦笑が嫌でも脳裏に浮かぶ。


そんなんいいよ、と返し、

「あのね、」

意を決して用件を切り出す。


「ん、何?」

「会って話したい」

そう言うと、再び重い沈黙に包まれた。

会うの、嫌なのかな? そりゃ会いたくないよね、冬以の方は。