「え? どういうこと?」
綾子が不思議そうに照哉くんを見上げて聞き返す。
「気ぃ利かせたんだよ」
「はっ?」
「だから俺らも……場所変えよ?」
愛しげに見下ろして、照也くんは綾子の肩を優しく抱き寄せた。
「不器用なヤツめ」
言って田所が、喉を鳴らしてクツクツ笑う。
お互いさまだろ、と。既に私たちに背を向けて綾子と歩き出した照哉くんは、振り向きざまそんな意味深な言葉を口にして、ニッと笑って見せた。
田所と二人っきり。
急に辺りが静まり返って、木の枝が風に揺れる音さえ気になりだす。
何か言わなくちゃ。私をしかと包んでいる田所の両腕を解いて振り返ろうとしたら、背後の田所が、その腕にぎゅうっと力を込めた。
「たどこ……」
「俺さ、」
耳元で囁かれた声の甘さに、身体が痺れるような錯覚を覚える。
「なに?」
背中に感じる心地よい温もりを失いたくない一心で、続きを促した。
「考えたんだけど――
俺やっぱ、お前のこと好きだから」
「うん」
「お前はこうして俺の腕の中にいるわけだし」
「うん」
「それでいんじゃねぇかな」
田所が自分自身に言い聞かせているような響きに、切なくなった。
「田所の気持ちは嬉しいけど、でも私……冬以にちゃんと確かめようって思ってる」
「好きにすれば?」
それは投げやりな感じじゃなくて、田所が本心から言ってくれているような温かみがあった。私がしたいようにすればいい、と。
綾子が不思議そうに照哉くんを見上げて聞き返す。
「気ぃ利かせたんだよ」
「はっ?」
「だから俺らも……場所変えよ?」
愛しげに見下ろして、照也くんは綾子の肩を優しく抱き寄せた。
「不器用なヤツめ」
言って田所が、喉を鳴らしてクツクツ笑う。
お互いさまだろ、と。既に私たちに背を向けて綾子と歩き出した照哉くんは、振り向きざまそんな意味深な言葉を口にして、ニッと笑って見せた。
田所と二人っきり。
急に辺りが静まり返って、木の枝が風に揺れる音さえ気になりだす。
何か言わなくちゃ。私をしかと包んでいる田所の両腕を解いて振り返ろうとしたら、背後の田所が、その腕にぎゅうっと力を込めた。
「たどこ……」
「俺さ、」
耳元で囁かれた声の甘さに、身体が痺れるような錯覚を覚える。
「なに?」
背中に感じる心地よい温もりを失いたくない一心で、続きを促した。
「考えたんだけど――
俺やっぱ、お前のこと好きだから」
「うん」
「お前はこうして俺の腕の中にいるわけだし」
「うん」
「それでいんじゃねぇかな」
田所が自分自身に言い聞かせているような響きに、切なくなった。
「田所の気持ちは嬉しいけど、でも私……冬以にちゃんと確かめようって思ってる」
「好きにすれば?」
それは投げやりな感じじゃなくて、田所が本心から言ってくれているような温かみがあった。私がしたいようにすればいい、と。



