「600グラムの元気な男の子だった」

耳慣れた声が聞こえたと思ったら、ふわり、背後から包み込むように抱き締められた。

私のお腹の上には、その声の主のものと思われる両手がしっかりと組まれている。


信じられない想いで振り返って、背後の人を見上げれば、やっぱり予想に違わずその人で。


田所が人前で私とイチャつくなんて珍しい。どうしちゃったんだ、田所?

でもでも嬉しい。幸せ過ぎる。



瀬那くんが、

「どこ? 赤ちゃんどこよ? パパでちゅよー」

などとふざけて、一人勝手にはしゃぎだした。


「トイレに放置してきた」

そう返した田所は、至って平静。だけどどうやら、瀬那くんと一緒になってふざけているみたい。

いつもの無表情だけど、機嫌は悪くなさそう……かな?



「てめ、流したりしてねぇだろうな? 俺のベビちゃん」

訳のわからないことを捨て台詞みたいに吐いて、瀬那くんは突然、渡り廊下へ向かって走り出した。


「瀬那くん……ほんとにトイレに向かった……」

ぼそりと呆れたように呟いた綾子に、照哉くんはプッと小さく吹き出して、

「んな訳ないじゃん」

と可笑しそうに笑い出した。