「どうなの?」

今度は私の右頬をむぎゅうと摘まんで、綾子はもう一度問う。



「『どうなの?』って何が?」


「だから、田所とのこと大丈夫なの? って聞いてんのっ!」


「だっ、大丈夫だよ? ただ……」

そこまで言い掛けて口籠る。頬のあまりの痛みに涙がじわっと滲み出てきた。綾子、酷い。



「とりあえず手、放して」

切に願えば、ごめん、と。綾子はハッとしたように慌てて手を放し、素早くそれを引っ込めた。



「『ただ』、何?」


「うん、ただ……自分を信じることにした」

まだつままれているように感じる右頬を、自分の右手で押さえながら答えた。


「『自分を信じる』? 意味わかんない。わかるように話してよ」

ほんの少し苛立った口調で、綾子が更に問い返す。


「わかんなくていいよ、今は。でも確かめたら……全部がはっきりしたらちゃんと話すから。だからそれまで待って?」

強固な意志を瞳に籠めて、綾子を真っ直ぐ見詰めた。



私の気持ちが綾子に届いたのか、届かなかったのか、どちらかわからないけど。

とにかく綾子は、ふう、と一つ小さな溜息を吐き、

「わかった」

とだけ言って、再びお弁当のおかずを口へと運び始めた。