耳元でコール音が鳴り続ける。いい加減しつこいだろうって思うけど、中々オンフックボタンを押せずにいた。
ようやく留守番電話サービスに切り替わり、アナウンスが流れ始めた。途端、どうしてだか激しく動揺し、慌てて電話を切った。
冬以、レッスン中なのかなぁ。それとも敢えての無視?
もう直接会いに行ってやろう。一度やると決めたら、何が何でもやり遂げたい。それもできるだけ早く。
自分の気持ちをスッキリさせたいっていうのが、一番大きいかもしれない。
冬以の家は知らないから、冬以が所属するダンススタジオのタイムテーブルをネットで検索した。
今日、月曜日はスタジオでの冬以のレッスンはない。明日は午前だけだ。明後日の水曜日は――
最終の『21時~22時』枠が、冬以のレッスンだ。『ヤングHip-Hop 嵯峨崎冬以』って書いてある。
『女子中高生に大人気!』なんてキャッチフレーズみたいなことまで、その小さな枠の中に書き添えてあった。
人気なのは、レッスン内容というより冬以自身でしょう? なんて意地くそ悪いことを一瞬思ったりしたけど。あの二年女子の華々しいステージが、ぶわーっと脳裏に蘇って、すぐに思い直した。
冬以が作り上げたステージは、エンターテイメントの域を超えていた。正に芸術。冬以はダンスのインストラクターと言うより、アーチストと言った方がしっくりくるような気がする。