また綾子は、有難迷惑な同情をチラつかせる。だからそういうの、余計に惨めになるんだってば。



「綾子は行ってよ。照哉くんが待ってるよ?」


「待ってない、待ってない。いつでも会えるんだし。てか私たち、いつも一緒だし?」


普段は絶対に言わないような惚気を冗談ぽく口にして、照れくさそうに苦笑した。



「私のこと可哀そうだとか思ってんでしょ? やめてよ、そういうの」


「あんたってそういうとこ、可愛くない」


「そういうとこだけ? 他は可愛い? 可愛いとこなんかないでしょ」


ふて腐れた口調で返し、机の上にうつ伏せた。折った右腕を枕にして、左手にはスマホ。目的もなくそれを弄り始めれば、綾子が私の頭をそっと撫でた。



そんな綾子の優しさにも、今の私は感謝なんかできない。

知らんぷりしていたら、綾子はカタッと椅子を鳴らして立ち上がり、私に向かってそっと言葉を落とす。


「じゃ、行ってくる。田所のこと、照くんたちに聞いてきてあげる」



何ですとぉ?



「ちょっと余計なこと……」

慌てて身を起こして振り返れば、既に綾子は教室出入口付近にいた。


ちっ、逃げ足だけは早い。

というか、逃げるってことは『余計なこと』だという自覚ありとみた。