「何その丁寧語。気持ち悪ッ!」

言いながら綾子は、私の前の席の椅子を引いて、そこに横向きで腰を落とした。



「てかさ、何かあった?」

顔も体と同じく横を向いたまま、私の方は見ないで、綾子は何気ない口調で尋ねる。


「別に何も……」

冬以とシちゃったかもしれないなんて、口が裂けても言えない。言える訳がない。



「そっか、ならいいけど」

見え透いた嘘に騙された風を装う綾子。


私の頭の天辺をガシと掴んで、髪の毛をくしゃくしゃと弄る。もはやそれは、撫でるというより掻き乱すといった感じ。


そして、

「話したくなったらいつでも言って。聞くから」

そう言ってニンと笑った。



どうせなら……騙された振りを貫いて欲しかった。






お昼休み、教室でお弁当を食べ終わったら、照哉くんたちがいる秘密の喫煙スポット(中庭)へ移動するのが私と綾子の日課だ。


席を立った綾子に、

「今日私行かない。田所いないもん」

すかさずそう言えば、

「そっ? じゃ、私も行かない」

当たり前のように返し、綾子は再び腰を下ろす。