田所は少しの間をおいて、躊躇いながらもようやく口を開いた。


「一人に……なる時間」


「一人に……? そしたら私も一人になるじゃん、嫌だよそんなの」


思わず子どもじみた我儘が口を衝いて出た。縋る思いで田所を見上げれば、酷く辛そうな苦笑。



「なぁほのか……」

ふっと、溜息とも何ともつかない息を短く吐いて、そうしてまた田所は続けた。


「俺いっつも、大概お前の我儘聞いてやってるよな? たまにはお前の方も俺の我儘聞けよ。なっ?」


やけに穏やかな口調が、私の不安を一層煽る。すぐに何か言葉を返そうとするも、胸が押し潰されそうで喉が鳴らなかった。


ただ、ふるふると顔を小さく左右に振ることしかできなくて。そんな私を田所は優しく見下げて言った。


「心配すんなって。絶対別れねぇから。もう、後悔すんのはこりごりだし? 悪いけど今は――

――お前の我儘を可愛いと思えない」


ごめん、と。ポッツリ謝って、田所はゆっくり踵を返す。そうして再び、学校とは反対方向へ歩き始めた田所を、もう追う気にはなれなかった。