田所がこんな風に声を荒げるのは久々だった。

咄嗟に、掴んだ田所の腕を手放した。


すごくびっくりして……。と同時に怖くなった。



だけどそんな私を見て田所は、ハッとして目を見張る。


そして、その整った顔を悲痛なほどに歪めて、

「ごめっ……ほのか、ごめん」

と、小さな声で謝った。



今にも泣き出しそうな田所。それなのに私を気遣って……。

どこまでも優しい田所に、胸がぎゅうっと締め付けられた。


彼を傷つけたのは、私だ。



沢山の想いが喉の奥まで迫り上げて来て、だけど、息も出来ないほど苦しくて声が出ない。



田所はフッと目線を落として私から逸らし、

「ほのか、時間ちょーだい?」

酷く苦しそうに漏らした。


それは、今の田所の精一杯の訴えだと嫌でも気付く。だけど私は、どうしても受け入れられなくて。



「時間って何の?」

思わずそう、聞き返していた。不安で頭がどうにかなりそうだった。


『別れ』を考える時間だったらどうしよう……。そんな時間だったら、あげたくない。田所がどんなに望んだって、絶対にあげたくない。


そんな自己中心的な考えばかりが頭の中でぐるぐる回る。