「なんで?」


「わからない」


「わかんねぇ訳ねぇし。てかこっちが意味わかんねぇ」


「何も覚えてなくて。ごめん、田所……わたし……ごめん」



田所はほんの少し目を見開いて私を見下げた。


何かを言おうと薄く開かれた口。けれどそこからは何も発せられることなく、ただ時だけが流れていく。



すごく長い時間そうしていたように感じた。でもそれはほんの1、2秒だったかもしれない。



息もできないような緊迫感に押し潰されそうだった。


何か言ってよ、田所――

――と、こんな時でさえ私は他力本願で。自分が蒔いた種なのに……。



田所は何を考えているのかわからない無表情のまま、ゆっくりと言葉を発した。


「俺はほのかしか見てないのに、なんでお前は……」


「私だって、」


すかさず言い返そうとしたけど、途中で口をつぐんだ。



冬以とシちゃったくせに、こんな言い分が通る訳ない、と。自分自身を客観的に分析している私がどこかにいた。