「アイツ……巧そうだもんな……」
頭を抱えていた両腕を、膝に引っ掛けて前に突き出し、田所はカクンと首が折れそうなほど項垂れた。
「ちょっと田所くん、私の話聞いてる?」
「んー」
返事のような、相槌のような、呻き声のような『何か』が返って来た。
完全に『心ここに非ず』だ。
多分田所は――
ゆきさんの『あの時』の声を思い出してしまったんだと思う。
田所のお隣に住んでいたゆきさん。
冬以はゆきさんの彼氏だった。だから当然、壁一枚隔てたそこで、ゆきさんは冬以に抱かれていた訳で。
田所はいつも、その時の声を壁越しに聞かされていた――のだと思う。
私も一度だけ、田所の部屋でそれを聞いてしまったことがある。ゆきさんが絶頂へと向かう時の声は、それはもう凄まじく……。
頭を抱えていた両腕を、膝に引っ掛けて前に突き出し、田所はカクンと首が折れそうなほど項垂れた。
「ちょっと田所くん、私の話聞いてる?」
「んー」
返事のような、相槌のような、呻き声のような『何か』が返って来た。
完全に『心ここに非ず』だ。
多分田所は――
ゆきさんの『あの時』の声を思い出してしまったんだと思う。
田所のお隣に住んでいたゆきさん。
冬以はゆきさんの彼氏だった。だから当然、壁一枚隔てたそこで、ゆきさんは冬以に抱かれていた訳で。
田所はいつも、その時の声を壁越しに聞かされていた――のだと思う。
私も一度だけ、田所の部屋でそれを聞いてしまったことがある。ゆきさんが絶頂へと向かう時の声は、それはもう凄まじく……。



