ドリウスは麓の村ののんびりとした観光を楽しみ、
ライアスはイブナクの監視下で麓の村をのんびりと楽しんで過ごした。

堅物のイブナクの態度がライアスに対しては少々軟らかいので、村人はそんなイブナクをニヤニヤしながら観察していた。
イブナクがライアスに好意を抱いていることは村人達にバレバレだった。
また、イブナクの睡眠不足の様子も日に日に激しくなっていった。
それもそれで、村人はイブナクをニヤニヤしながら観察していたのだった。

数日後、イブナクが悪魔狩りの詰所に呼ばれた。当然監視対象のライアスも一緒に行くことになった。

長の部屋をノックし、応答を得てからイブナクが入る。
ライアスにノックという習慣は無かったので、イブナクの挙動は奇異に見えたが、これが人間界の習慣らしい、ということだけはわかった。

「イブナク、明日天界のカードが届く。」
イブナクは寂しいと思ったが、努めて表情に出すことはなかった。
「では、それでライアスとドリウスを魔界に送り返しましょう。」
「そのことなんだがな、イブナク。」
長が暫く間を置く。
「アーヤ陛下からイブナクにも魔界に送るよう命じられた。」
「…え?」
イブナクは驚愕した。
「悪魔狩りの組織としてはそなたほど優秀な悪魔狩りを手放すのは惜しいが…。」
長は疲れた様子でアーヤの命令をイブナクに伝える。
「魔界の情勢を探ってくるようにとのご命令だ。行ってこい、イブナク。」
イブナクは複雑な表情をした。
「魔界にいてもライアスを監視しなければならないのですか?」
「その必要は無いが、陛下はそこの小娘たちとの同行を希望しておられる。」
「そうですか。」
生まれ育った人間界を離れ、特殊任務を帯びて魔界に行くのは心細かった。
しかし、ライアスと離れなくていいということが嬉しくないというのも嘘だった。

「陛下からだ。」
イブナクは、長から小さな銀のカップを渡される。
「定期的に陛下に魔界の情勢を報告するように。とのことでそのカップが届けられた。」
「水鏡の代わりだな。」
ライアスは銀のカップの意図を正確に把握したようだ。
「アーヤめ。俺たちをこき使うつもりだな。」
『そのとおり。イブナクに定期的に連絡を取らせるように。』
突然アーヤの声が脳内に響く。念話か…。
「めんどくせぇこと押し付けやがって…。」
『しかしそれがそなたと余の血の契約の条件だからな。』
少女の声には似つかわしくないしゃべりかただが、それが何よりも、アーヤ本人からの念話であること裏付けていた。

イブナクとライアスは悪魔狩りの詰所を出ると麓の村の中心部に向かう。
ドリウスに明日になったら魔界に帰れると伝えるためだった。