「人間のふりするのって退屈…。空も飛べないなんて。」
ライアスは馬車の中でぼやいていた。
何故かピンクのずるずるとした長い衣装を着せられ、しかもひらひらしている。そのうえ翼を出し入れできない格好になっている。
ずるずるした衣装は先が切れた尻尾を隠してくれてはいるが、歩きにくい、動きにくいことこのうえない。
ライアスのツインテールのリボンの色は濃い赤に変更され、縦ロールになっている。
イブナクに衣装のことを聞いたら、ドレスと呼ばれる服だそうだ。
曰く、仮にも一国の王にお目にかかるのだから礼服にあたるようなものを着なければならないらしい。

それはイブナクも同様で、いつもは邪魔にならないようにまとめているポニーテイルが後頭部の下で結われ、シルクのリボンを結ばれている。
イブナクは悪魔狩りの礼服を着ていた。
白を基調とした衣装に青の縁取りでライアスよりも動きやすそうな衣装だが、下に着ているブラウスと呼ばれる服にはレースがごってりとついており、お世辞にも実戦向けとは言えなかった。
「人間には翼が生えてないから仕方ない。こんな昼間から空を飛ぶつもり?過激派に見つかったら殺されるし。」
「この馬車ってヤツは乗り心地は悪くないけど乗り物って概念が魔界には無いからなぁ…。」
ライアスはため息をつく。
イブナクは着飾ったライアスを見て可愛いと思ってしまい、何故可愛いと思ったのかわからず顔が赤くなってしまった。
どんなに可愛くても悪魔は悪魔なのである。
「イブナク、人間は病気になると熱を出すらしいのだが、熱でもあるのか?」
「僕は至って健康だ。」
健康な…17歳の男だし。心の中でこっそり付け加えるイブナクであった。