悪魔狩りの詰所に行くと、長がイブナクを待ちかねていた。
「あの悪魔の小娘を取り逃がしただろう。」
「はい。捜索中です。」
「その件なんだが、我らは2つの意味で小娘を監視する必要があるんだよ。」
「嫌というほどわかっています。」
「あの小娘、おとなしくしておいてくださいと頼んだのに…よりにもよって城に侵入しおった!」
イブナクは実は既に見当がついているのだが、ここは黙るのが得策、と無言を貫く。

「今朝、アーヤ陛下から水鏡で連絡があってな…。ライアスという小娘とイブナクを城へよこせと。」

長はツバを飛ばさんばかりの勢いでまくしたてる。
「詳しく聞いたら昨日あの悪魔の小娘は単身で城に行き、陛下と話をしたとのこと!それで陛下はあの小娘ともっと話したいと仰っている!」
長はこの世も終わりと言わんばかりの顔だったが、言うべきことは言った。
「監督不行届もいいところだイブナク!」
「申し訳ありません。」
イブナクは小さくなるしかなかった。
「イブナクが一番優秀だから任せたのに~~~~!!!!」
もう長は怒りながらも涙目という器用な芸当をこなしている。
「もう城へ向かうための馬車が麓の村へ向かっておる最中だ、早く小娘を探しだせ!」
「はいっ!」
イブナクは長の部屋から出ようと扉を開けた。

「うぎゃっ!」
扉の前にいた誰かとぶつかってしまったらしい。
思い切り押し開けたので、相当痛かったに違いない。イブナクは反射的に扉にぶつかった被害者に謝る。
「失礼…って、えぇ?!」
「いってぇ…。」
長に探せ探せと言われていたライアスがそこにいた。

ライアスが見つかったとわかると長は突然姿勢を正した。
「お互いのために少々イブナクの家にておくつろぎになられてはいかがでしょうか、って言ったじゃないですか。何、城に突撃してくれちゃってるんですか!」
ライアスは怒られるのには慣れていないうえに、面倒そうなことになっていることは察知したのでとりあえず謝っておくことにした。
「悪かった。」
ライアスは相変わらず偉そうである。

「で、おっさんにお願いがあってきたんだけど。」
ライアスはアーヤからもらった封筒を渡す。
「城への馬車を手配しろ。」
「もうこちらに向かっているそうですよ。」
長は疲れた声でライアスの要請に答える。
「おぉ、アーヤは手際がいいな!」
一国の王を呼び捨てである。悪魔の価値観はわからない、と悪魔狩りの2人が考える中、ライアスは意気揚々と長の部屋を出ていった。

暫くの沈黙の後、長が言った。
「どうやら…侵入したというのはガチでマジの情報、ということだけ確定したな。」
「はぁ…そのようで…。」
「イブナクの処分は後だ、国王陛下の招集だ。行ってこい。」
長は疲れた様子でイブナクに指示を出す。