時間は少し遡り、ライアスが帰ってくる前のこと。

イブナクは寝心地が悪くて目が覚めた。
壁を背にして床に体育座りで眠っていたのだから当たり前である。
イブナクの当面の仕事はあのツインテールの悪魔の監視であるからして、ベッドを覗きこんだのだが、いない。

イブナクより早く目が覚めてそのへんをうろうろしているのだろうか。
イブナクは長い黒髪をポニーテールにして、軽く身支度を整えて家の外に出た。
早朝のひんやりとした空気が心地よいが、それを気にする余裕はない。

朝から走り回るイブナクを見たファスが声をかけた。
「よう、イブナク、珍しいな。」
イブナクが取り乱している様子が珍しいのだが、そこはファスも指摘しない。まだまだ意地っ張りなお年頃なのだ。17歳の少年というものは。

イブナクは少し深呼吸する。そして、ファスに訊ねた。
「昨日村に迷い込んできたツインテールの悪魔を見なかったか?」
ファスは無言で配達予定の牛乳を一本、イブナクに渡す。

「ライアスちゃんなら昨日カミュさんの酒場に来たけど。夜の散歩だって言ってたな。」
イブナクはボソボソと礼を言いながらもらった牛乳を開けて一口飲んだ。
「夜の散歩…?」
「東はどっちだ、とも聞いてたっけ。酒入ってたからよく覚えてないけど。羽伸ばしたかったんじゃない?」
イブナクは【羽伸ばしたかったんじゃない?】の意味を本来の意味でなく、全く違う意味で受け取った。
要は東に飛んでいった可能性が高いということだ。
期せずして真実にたどり着いたイブナクであった。

「イブナクーーーーー!!!!!」
イブナクの名前が大音量で叫ばれた。悪魔狩りの同僚、サウラーであった。
「サウラー?!」
「オマエ何やったんだ、長がカンカンだ。早く悪魔狩りの詰所に行けっ!あの状態の長はマジでヤバイっ!」
サウラーは有無を言わさずイブナクを引きずって行ってしまった。
残されたファスはぽかーんとしている。
ファスは牛乳配達の仕事を忘れて15分ほど立ち尽くしていた。

「ファス!」
少女の声が聞こえた。聞き覚えのある声にファスは我に返る。
「え…ライアスちゃん?!」
「イブナクが起きる前に帰ってくるつもりだったんだけど、もうイブナク起きちゃったみたいで、いないんだ!」
ファスはイブナクにもやったように、無言で牛乳を一本、ライアスに渡した。

「イブナクならちょっと前に悪魔狩りの詰所に行ったと思うよ。悪魔狩りの同僚が迎えに来たから…。」
「わかった。牛乳と情報、アリガトウ。」
カタコト感が抜けないながらもライアスはファスにお礼を言って翼を広げ悪魔狩りの詰所に行った。