ライアスは酒場を出ると翼を動かし、まずは上空に飛び立った。
酒場を出て…左。
人間に見られたらまずいんだっけ、と思い、ライアスは更に上空へ飛び上がる。酒場の光を目印にして東を目指す。
ライアスにとっては当たり前のことだが、悪魔は夜目が効く。

大きな建物が見えた。
おそらく、あれがこの国の城、なのであろう。

ライアスはその巨大な建物を目指して飛ぶ。
下級悪魔だったときよりも力がついたのか、速く飛べるようになっていた。

ライアスは巨大な建物の全体が見渡せる位置で停止した。浮き続けるのは少々つらいがアーヤに会いたいだけなのだ。
イブナクから聞いた話によると、アーヤはどんなに人間離れしていても、一応人間を装っているようだ。
だから、門番も置いているかもしれないし、見張りの兵を置いているかもしれない。
門番だの見張りだのに見つかったりといった面倒事は怠け者のライアスにとってはお断りである。

幸い、城の見張り台の見張りは居眠りをしていた。
ライアスはゆっくりと城に近づく。
圧倒的なプレッシャーを感じた。

いる…!

ここにいるのは…暴食・憤怒・強欲・怠惰の誰かか、それとも…天敵である天界の住人か?

ライアスは集中して魔力が最も強い部屋を探しだす。
ライアスが集中してから3分ほど経過した。こういうときにアフストイがいないのは不便だ。
アフストイは魔力を視ることに関してはライアスやドリウスより上だった。七罪だから当たり前ではあるが。
建物の高さでいえば上の方、豪奢なバルコニーがある部屋から魔力が漂ってくる。

ライアスはバルコニーから侵入を試みる。
鍵がかかっていたが簡単な鍵であったため、爪を細く伸ばし、あっさりと解錠した。
爪の変形ができるようになったことから、確かに悪魔としての格が上がったことを実感する。

鍵を開けたバルコニーからライアスは堂々と城の中へ入った。

「誰ぞ?」

城内に入った途端、声をかけられる。どう聞いても少女の声だった。
「結界を通り抜ける感覚があった。だから起きた。人間じゃないのはわかっておる。誰ぞ?」
何故起きたのかを懇切丁寧に説明しつつ、再び侵入者に対して何者かを訊ねる。
騒いで衛兵などを呼ぶ様子もない。

「俺?元下級悪魔のライアスだけど。」
「そうか。」
真っ暗な部屋でも声の主が少女であることだけはわかった。
そして、その少女には声は驚いた様子すらない。
「余は強欲のアーヤ。」