ライアスは翼をしまい、勝手にイブナクの家に入る。
「一般的な人間は、家主が家に入っていいって言ってから家に入るんだが?」
イブナクは呆れたが、悪魔と人間は考えていることが違うことはわかっていたので、ため息をつくだけだった。
イブナクの家は狭く、質素な家だった。
ライアスはイブナクのものであろうベッドを見つけるとベッドに勢いよくダイブし、寝そべった。

「イブナク、人間界にいる強い悪魔とかいたら教えてほしいんだけど。」
丁度良い機会だったので、人間界に七罪と思しき悪魔がいないか聞いてみる。
「悪魔だとは思うんだけど、討伐依頼が来ない人なら知ってる。」
「それは誰だ?」
「この国のアーヤ陛下かな。」
「悪魔が人間界の王…?」
「一兵卒から成り上がった王なんだけど。」
イブナクはアーヤ陛下とやらの説明を始める。

「領土拡張の戦争が多いだけで、特に民衆を虐げるとか、そういうわけじゃないから。」
「…それだけ聞くとただの人間と変わらない気がするんだが。」
「そもそも、一兵卒だった時から異常な強さで、当時の見た目は12歳くらいだったんだけど、即位当時から15年経っても全く見た目が変わってないんだ。」
イブナクは更に言葉を重ねる。
「それに、魔法を使うし、翼を広げて飛んでいる姿も見られている。君の翼と違って、もっと禍々しい…そうだな、龍みたいな蒼い翼だったと伝え聞いてる。」
「ふぅん…。」
ライアスはイブナクのベッドで勝手にだらだらとくつろぎながら考える。
「そのアーヤさん、会えないかな?」
「君は一国の王に僕みたいな一般人が会えると思うのか?」
「オマエ一般人っていうか、悪魔狩りじゃん。」
「悪魔狩りも一般人も国王にとっては変わらないよ。」
イブナクは静かにライアスが言ったことを否定する。
「そっかぁ…。俺はどうしてもアーヤさんに会いたいんだが。」
「陛下をつけろ陛下を。不敬罪で捕まるぞ。…実際に捕まった奴は知らないけど。」
「不敬罪ねぇ。」
そんなもん悪魔の世界には存在しないけどな、とライアスはつぶやく。
魔界の王であるところの神は悪魔にすら畏敬の念を抱かせるのだ。圧倒的な力に、悪魔の誰もがひれ伏す。しかし、人間の王は違うのかもしれない。
「悪魔狩りなのに悪魔が王だったとしても何とも思わないのか?」
イブナクに聞いてみる。
「結局のところ、民衆は良王であれば人間でも悪魔でも天使でも関係ないんだよ。そもそも悪魔狩りの組織を発足させたのがアーヤ陛下だからな。」