調理室から城内へ入ると、魔界には似つかわしくない真っ白な内装の城であることがわかった。
強い悪魔ほど門番だの警備だのといった悪魔は置いていない。
広いだけで、殺風景な印象を受けた。

先代の魔界の神
絶対で唯一の独裁者
堕天使ルファン

アフストイの屋敷のほうがまだ豪奢と言える、質素な城だった。
ルファンから力を与えてもらおうと思う悪魔は多かっただろう。
悪魔に力を与えられるのは、魔界の神だけなのだ。
血の契約は契約者同士が互いの利益になるように動かなければならない。
しかし、悪魔の神から力を与えられる場合は何の見返りを期待されることもなく力を得ることができるのだ。

「資料室ってどこだろうな…、アフストイ、転移でなんとかならないのかよ。」
手すりに座って左右色違いの羽を休めているライアス。
「具体的なイメージもないのに転移できるわけないでしょ。」
アフストイ曰く、転移は明確な目的、明確な場所のイメージが無ければできないらしい。

そこにドリウスが舞い降りる。
「資料室…?っていうのか?紙が散乱してる部屋ならあったけど。」
ドリウスが見つけた部屋を案内する。
「ルファン様は整理整頓が嫌いだったようだな。」
「これは資料っていうよりは、魔法の術式の資料だな。読んでおいたほうがいいかもしんねぇ。」
「あれあれ?怠け者ライアスがやる気ってどういうこと?」
ドリウスがニヤニヤしながらライアスに尋ねる。
「傲慢と強欲と憤怒は好戦的なんだろ。毎回飛び蹴りで解決するたぁ思ってねぇよ。」
ライアスは黙々と読書を始めた。

暫く沈黙が続いたが、それを破ったのはアフストイだった。
「ライアス、七罪を…殺したらどうなると思う?」
突然、アフストイがライアスに聞いた。

「力はもらえるんだろうけど…それくらいしかわからないな。」
ライアスは答える。
「私は日和見主義だから、殺すとか血なまぐさいのは好きじゃないんだけどさ。もしライアスが私を殺したとするでしょ?そしたら次代の嫉妬はライアスになるんだよ。」
アフストイは説明を続ける。
「神が存在するときに殺された七罪は3年以内に転生するのよね。」
「今七罪を殺しちまったら大変だな。神を目指す悪魔から狙われ放題じゃまいか。」
ドリウスが他人事のように言う。

「言いたいのは、ここでどの七罪がどこにいるかわかっても、代替わりしてる可能性が否定できないわけ。」
ライアスはうーん、と唸って考える。
「探すのは、七罪のいる場所を示した資料じゃなくて、どうやったら七罪がいる場所がわかるかの資料にしよう。ここは資料室というよりは学習室みたいだしな。」