ノアが食事をしながらぽつぽつと話し始めた。
「昔話だが。」
ライアスとドリウスは食べるのに夢中でほとんど聞き流しているに近い状態だった。
「先代の神は元は悪魔ではない。」
「えっ?!」
聞き流していたつもりが完全に注意を引きつけられる内容だった。
「天界から片翼をもがれて落ちてきた天使だ。天界でも良家の姫だったようだな。本人曰く、云われのない罪を被せられ、理不尽な罰を受けたとのことだった。」
アフストイも呆気にとられる。
「当時は天界が攻めてきたと騒ぎになったが、ルファン様は悪魔を理解し、それなりの秩序を保ちつつも悪魔の自由さを放置した。」
「悪魔にとって大切なのは誰よりも強い存在であること。それだけでカリスマになれるしな。まあ下克上するチャンスは常に狙ってるわけだが。」
ドリウスが少し補足した。

普段口数が少ないノアがよく話すのも珍しかったが、先代の神ルファンは悪魔ではなかったという事実のほうが衝撃だった。
「魔界の神になるのは悪魔だけの特権じゃないってことか。」
ライアスは、自分と同じく神の座を狙う者として、サキやダークのことを思い出す。
天界などの異世界から自分以外の候補者が現れる可能性もあるというわけだ。
「特別な日にしか人間界に通じないようになったのはルファン様の治世の時代の話だ。ルファン様は人間界を嫌っていたし、天界も憎んでいた。」

それきりノアは言葉を発することなく、黙々と人間界から転移させてきた料理を食べていた。
食べて食べて食べつくした頃、ノアが再度言葉を発した。
「ルファン様亡き後、この城は空っぽだ。七罪の所在を示す何かは残っているかもしれんな。」
「調べるしかない。」
ドリウスはそう言うと席を立つ。
「めんどくせぇなぁ。」
ライアスはいつものセリフを放つ。
「魔界の隅から隅まで調べるよりこっちのほうがめんどくさくねぇだろ。」
「そりゃそうだけどさぁ…。」
ライアスは面倒くさそうな顔をしながらも尻尾を掴まれてドリウスに引っ張られて出ていく。
「私を置いて行かないでよ!」
アフストイもライアスとドリウスについて出ていった。