「サキはいいよな、最近全部隠せるようになったからな。」
ライアスはサキに嫌味混じりの八つ当たりをする。

「それはライアスがだらだらしてたからでしょ。」
サキに事実を突きつけられる。

「だって、めんどくさかったんだ。」
「その結果がその尻尾というわけね。」
サキはライアスとの会話を早々に切り上げ、悔し泣きをしている下級悪魔の一人に近寄る。

「取り返してきたわよ、あなたの尻尾。」
ライアスの顔見知りの下級悪魔、リリだった。サキに取り返してきてもらったらしい。

「リリに返してもいいわ。」
一瞬、リリの涙が止まる。
「ただし、血の契約を結んでもらうけど。」
血の契約。人間たちの言葉でいうところの同盟。

「ツノも隠せないあなたじゃ、また取られちゃうわよ。私と血の契約を結んだほうがいいと思うけど。」

リリは少し考えた後、サキに答えた。
「結ぶ…サキと。血の契約。」
リリとサキはそれぞれ自分の手のひらを傷つけ、重ね合わせる。血の契約の儀式だった。

淡い闇がサキとリリの体から出て、互いの体を行き交う。
「サキ、意外とえげつねぇな。」
ライアスがつぶやく。

サキは大きな胸を張ってライアスを見下ろす。
「なんとでもいいなさい。ライアスの尻尾も取り返してきてもよくってよ?誰に奪われたの?」
「サキじゃ無理だな。ダークだし。」
「ふふ…、ダーク様のお友達から下僕になったのね。気が変わったら私に頼めば?血の契約はしてもらうけどね。」
サキはそう言うとリリと一緒に翼を広げて飛び去った。
サキの家にでも帰ったのだろう。

「サキはエロい体してるからな。大概の男悪魔からはモノ取り返せるだろうよ。尻尾も切ってこれるかもな。」
ライアスは自分の体を見下ろした。性別不詳である。

「血の契約なんて、尻尾切るのと同じじゃないか。本人が自ら隷従を望むか、無理矢理隷従させられるかだけの違いで。」
ライアスは魔界の空を見上げる。

中級悪魔達が空中戦をしているのが見える。
互いの体の一部を奪おうとしているのであろう。

ただ、のんびり生きてたかっただけなのにな。

ライアスは遠い目でそう思い、嘆きの広場にしゃがみこんで、ぼけっと空を見上げていた。
他の悪魔に翼を奪われてはたまらないが、今のライアスは翼を隠すことはできなかった。隠し方を知らないのだ。