サキマとアーヤが戦っていることも知らず。
サキマがサキに殺されたことも知らず。
ただ眠り続けるライアス。

1週間も経つと、さすがに3人も心配し始めた。

言い表すことができない不安が、溜まっていく。

「いつまで寝てるのよ…、そろそろ起きなさいよ…。」
気が強いスノーが少し不安そうな顔でライアスの手をにぎる。

「イブナク、恐けりゃ人間界に帰ったっていいぞ。」
ドリウスがイブナクに話しかける。

「恐い…なんて…。」
ライアスが恐くないかと言えば嘘になる。
味方だったアフストイを殺したのだ。
それとも、【味方】という感覚自体が人間特有のものだ。
悪魔にとっては互いの利益のために手を組んでいるといったほうが正しい。

それはイブナクもわかっているのだ。
イブナクは無表情を貫く。
「恐くない。これが悪魔の常識でしょ。」
ドリウスはわかってるじゃないか、といった様子でニヤリと笑う。

そこに突然、漆黒の悪魔が現れる。
長い三つ編み、5枚の翼。
ライアスを拾って育てたというダークだった。

「ちょ、おま、ダーク!」
慌てて抜刀し、構えるイブナクと呪文の詠唱に入るドリウス。

「あのー。そんなに警戒しなくてもいいんだけどね…。」
ダークはここで争うつもりはないとばかりに肩をすくめた。

「どうせ、起きないライアスにイライラしてたんだろう。」

「嫉妬の君を殺して嫉妬になりかわったのに、その経緯も理由も、君たちは知らないんだから。」

イブナクとドリウスの表情が剣呑になる。

「ライアスの意識の中身を覗けばいいだけの話なんだけどね。」
ダークがあっさりと口にした。
「ドリウスさんならそれができるはずだろ。それとも知らないだけ?」
「知らない。」
ドリウスは即答する。
表情を見ても、ドリウスがその魔法を知らないのは明確だった。