イブナクは、ルファン城の城内を散策していた。

ライアスは眠り続けている。
ライアスがアフストイを殺したのはわかった。
そうしなければならない事情があったのか、気紛れで殺したのか。
ライアスの口から直接聞きたかった。

しかしライアスはまったく起きる気配がない。

1日のほとんどを城の散策、たまにスノーの気が向いたら実戦訓練をしていた。
最近のスノーは魔法も絡めてくるので手強い相手となっていた。
1対1となると完全に遊ばれている。

スノーと戦った時はアフストイがいた。
いたらいたで、ライアスへの好意を見せつけるような言動が少々イラつく存在ではあった。
だが、いなくなってしまうとそれはそれでなんとも言えない複雑な気持ちだった。

アフストイに宣戦布告されたときから、気づいていた。

ライアスから目が離せないのは恋の病ってやつなんだと。

悪魔狩りが悪魔に心を奪われるのは許されない気がして、誰にも言えないけど。

イブナクは珍しく自分の心の整理に追われていた。

ライアスは悪魔だから、力が強くなればどんどん美少女になっていく。
そのライアスと真名の契約をしたというドリウスもなかなかの美青年になってきた。
残念ながら上級悪魔の容姿を越える人間は限りなく少ない。

イブナクの病が今後治るかどうかは誰にもわからなかった。
アーヤ、スノー、ドリウスは治らない見込みでいるわけだが。



ドリウスは毎日ライアスが眠っている部屋に引きこもっていた。
ドリウス本人は魔法の本を読んでいることが大半だった。
たまにスノーやイブナクをパシリに使っている。

ドリウスは、アフストイが殺された翌日の朝からライアスの傍を離れない。
それが真名の契約故なのか、何らかの意図があるのか、イブナクとスノーはわからなかった。

ドリウスとしては、単にライアスにかすかに残っていた魔力が気になっていて、ライアスが眠っている間に害されないかだけを案じていた。
魔力が残っていたことはイブナクとスノーには話していない。

「神になる器、だと思ったんだがな。」
ライアスの変わらぬ寝顔を見つめ、溜息をつく。

ドリウスは自身の白い髪をいじっている。
本に集中している様子は見受けられない。

手持ち無沙汰なので魔界地図上から怠惰と暴食の魔力を探ってみた。
傲慢のサキマの屋敷付近から強い魔力を感じる。
ルファンの城付近からも強い魔力を感じる。

それ以外の場所からの反応がない。

イブナクから強欲への定期報告では、傲慢と強欲は手を組んでいたが今は手を組んでいないようだ。

「ここで各個撃破が手っ取り早いんだがな。」

早く起きてくれよ。
ドリウスの願いも虚しく、ライアスはただただ眠り続ける。