ドリウスは、食事を食べ終わる頃、用意された食事が人数分だったことに気がついた。

「ノアさん、食事が人数分丁度なんだが。」

「昨晩、嫉妬は代替わりした。それくらいはわかる。この城は今やオレの縄張りも同然だ。」
ノアはなんでもないことのように答える。

「嫉妬のかたが代替わりしたということは、当代のかたはわたくしと真名の契約をしてくださるかしら。」
イヴファルトは七罪の代替わりの大前提を知らないのか、それとも上級天使とは冷血なものなのか、契約のことを考えている。

「今の嫉妬はまだ眠っています。日を改めていただけませんか。」
イブナクがイヴファルトに言う。
「そうですわね。眠っている相手と真名の契約はできませんもの。」
イヴファルトはあっさり引き下がる、かと思ったが。

「ノア様、真名の契約をお願い致します。」
「何故オレ?」
あまり表情が動かないノアだが、さすがに驚いたようだ。
「強い魔力を感じるからです。」
「魔力だけならそこのドリウスもだいぶ強い魔力を持っているはずだが。」
「この世界で悪魔を統べるつもりなら魔力が強くないと誰もついてきませんわ。」
「確かにそのとおりではあるのだが。真名の契約は束縛力が強いから気が向かない。」
「そうですか。」
イヴファルトは少し残念そうに納得する。
「ごちそうさまでした。それではわたくしはアーヤ様のもとへいきますわ。」
イヴファルトはそう言うと調理場から外へ出て、白い翼を羽ばたかせ、飛んでいってしまった。

「相変わらずお嬢様なことで。」
ドリウスが疲れた様子で溜息をつく。

いけ好かない天使がいなくなったことで、スノーが機嫌を直し、ノアに質問する。
「ノア、ライアスが眠ったままなのよ。気付け薬とかないかしら。」
「オレの専門は料理であって薬学ではないぞ。ライアスは嫉妬になった直後なのだろう。今眠り込んでいるのは必要な眠りだ。」
ノアはライアスの昏睡状態が必要なものであることを説く。
「無理に起こすのはやめたほうがいい。」

「真実はしばらくわからない、か。」
ドリウスがつぶやいたが、それに対して、誰も答える者はいなかった。