ライアスは暫く沈黙する。
「アフストイ…オマエ、めんどくせぇ。」
ライアスはアフストイに背を向け、部屋に戻ろうとした。

「…やだ。いやだ。」
アフストイが泣きそうな声を出す。
「私を選んでくれないなら、せめて、ここで、私に殺されるか、ライアスちゃんが私を殺すか、して!」
「何バカなこと言ってるんだよ!?わけわかんねぇよ!」

「戸惑ってる暇なんてあるの?」
アフストイは攻撃魔法の詠唱を開始している。
「目を覚ませ、アフストイ、なんか変だぞ?!」
ライアスも2本の剣を出すが、いまいち本気を出しきれないでいる。

とにかく、魔法が発動したら殺される。
アフストイの魔法の詠唱は速いのだ。魔界でも随一の魔法の使い手。。
そのうえ、ライアスはスノーやイブナクみたいな反射神経を持ち合わせていない。

殺るか、殺られるかだ。

アフストイは本気なのだ。
スノーに使った煉獄の魔法「Fegefeuer(フェーゲフォイアー)」の詠唱だ。
いくらライアスが勉強を怠けていようとも、使えるかどうかは別として、魔法の詠唱の傾向くらいはわかるのだ。

ライアスは素早く魔力で創りだした蒼い剣をアフストイの頸動脈に突き立てた。

アフストイがごぼっと血を吐く。
剣を抜くと助かるものも助からなくなる。
その程度の知識があったライアスは剣は突き立てたままにした。
「私…、ライアスちゃんが…本…当に…本気で…好きだっただけ。」
血を吐きながら必死で話すアフストイの声はとても聞き取りづらかった。

「すまん、アフストイ。こんなこと、したくなかった。したくなかったんだぞ。」
ライアスはアフストイの身体を静かに屋上に寝かせる。
「も…助からないから…せめて…、」
アフストイは声を出して話すことを諦め、ライアスに念話で話しかける。
『最期まで、手をつないでいてくれる?』
ライアスは無言でアフストイの手を握った。

徐々に冷たくなっていくアフストイの体温。
「アフストイ、本当にすまない。そして、借りを返せなくて、悪かった。」
『借りなんて…私がライアスちゃんを好きだったから、お節介してただけよ。』

徐々に念話も少なくなる。

『ライアスちゃん、そんな顔しないで。私の嫉妬としての力はライアスちゃんに全部あげる。次の嫉妬はライアスちゃんだよ。』

それがアフストイの最後の念話だった。

完全に体温を失ったとき、アフストイの身体は闇になり、ライアスに同化した。
ライアスがアフストイの頸動脈に突き立てた蒼い剣だけが鋭い音を立てて、床に倒れた。