「私はダークと申します。強欲のアーヤ様ですね?」
ダークはまず自分から名乗る。
上級悪魔と最上級悪魔、一応人間界的な礼儀を心得ているダークならではである。
「左様。余が強欲だ。」
アーヤが答える。
勇者志願者たちは、誰一人声を出さなかったけれども、驚いたのが表情からわかった。

「血の契約を、お願いいたします。」
ダークはストレートに要求を言う。
「血の契約を求めるのは何のためか?」
アーヤがダークに問う。
「魔界の神となるためです。」
アーヤは哄笑する。
「ライアスと同じ理由か!」
アーヤはひとしきり笑った後、ダークに答える。
「よかろう。」

「えっ?!アーヤ、俺とも血の契約したよな?!」
ライアスが口を挟む。
「血の契約は1対1のみに限るものではない。それはそなたも知っておろう。そこのドリウスとアフストイの両方と血の契約をしているのだからな。」
アーヤは、ライアスの抗議にも関わらずダークと血の契約をするつもりだ。
「陛下は誰の味方なんですか。」
イブナクがアーヤに訊く。
「イブナク、悪魔に敵・味方の定義など無意味だ。」

アーヤはイブナクにそう答えた後、アーヤ自身の手に傷をつける。
ダークもダーク自身の手に傷をつけ、血を流す。

アーヤとダークが手を重ねると、淡い闇がアーヤとダークの間に相互に流れ、血の契約が完了した。
「感謝します、強欲の君。」
ダークは一礼して去ろうとした。

去ろうとしたダークを呼び止めたのはライアスだった。
「ダーク!」
ライアスの目には光さえ浮かんではいない。
「翼、返さなくていいのか?俺は条件付きでダークの翼を奪った。」
「返さなくていい。ライアスの尻尾は…そうだな、私が魔界の神になったら、その時に全てを話そう。」
「そんなの、知りたくない。知りたくないし、知らないままでもいい。」
ライアスは耳を塞ぐ。ライアスらしくない、弱気な挙動だった。
「でも私が死ぬまで、ライアスに尻尾は返せない。」
「…知ってる。」

誰も、ダークとライアスの会話に割り込めない。

「俺、あの魔法、使えるようになったから。」
アフストイとドリウスとイブナクとスノーは【あの魔法】が何を示すのかがわかった。
ライアスが蒼い竜になった魔法だ。
「そう…か。」
ダークはそう言うと、今度こそ、去った。

転移で。おそらく、魔界まで。