スノーは先程まで怒っていた割には、淡々と話し始めた。

「わたし、元は人間なのよ。」

「どこから話せばいいのかしら。子供のときに遡るかもね。」

「学校に通い始めたら父親に、いつも1位の成績を取れって言われていたわ。」

「父は貧乏だったから、娘の私を道具として使っていたのよ。お金持ちの家の子供でも、うちの娘の成績にはかなわない、ってね。」

「わたしはそんな家が嫌だった。」

「父があまりにもプレッシャーをかけるから、わたしはすごく勉強したわ。そして国立の優秀な学校に合格したの。」

「あら?その国はもう無いの?月日が経つのは早いものね。アーヤ陛下が併合してしまったのね。」

「大人になってからも、学校の下足箱にいる夢を見た。」

「そんな家を出たくて、子供が欲しくて、適齢期を過ぎてからだけど、お見合いで結婚したの。娘と息子を授かったわ。」

「でも、私がお見合いで結婚した相手はとんでもない大酒飲みだったわ。」

「酔っ払って、私や、子供たちを殴ったり、用もないのに大声を出したり、暴力をふるったり。」

「でも世間体が悪いから、って家を出ることを我慢していたの。帰れる実家もなかったから。」

「適齢期を過ぎて産んだ子供は、小さかったから。」

「暴力は、娘が夫を蹴り倒してから無くなったんだけどね…。」

「その後、娘はそんな生活環境には耐えられなくて、精神を患って自殺したわ。お母さん、幸せになれない私なんかを、どうして産んだの?と遺言書を残してね。」

「そういえば、私がいたせいでお母さんは離婚できなかったんだよね。生まれてきてごめんなさいとも書いてあったわ。」

「そんなこと、なかったのに。娘も息子も私の宝物だったのよ。」

「息子は、早々に結婚して家を出ていってしまった。それきり音信不通よ。」

「それからは地獄だったわ。毎日2人きり。酒を飲んでは暴言を吐く男だったわ。そのくせ小心者で、お酒の力を借りないと自分の意見も言えないような奴だった。」

「ある日、夫が散らかした酒瓶を片付けているときに、わたしはただ幸せに生きたかっただけなのに、って怒りがこみあげてきたの。」

「娘を失って、息子とは音信不通になって。後悔と怒りが爆発したわ。」