天界にその名を轟かせる上級天使イヴファルトは、実はとんでもない方向音痴だった。

姉ルファンの城の裏にある、と聞いていた屋敷。
七罪の色欲がいるという屋敷。

イヴファルトは城を出たのはいいものの、北側がどちらかわからず、数日間さまよったのだった。

「ここで間違いないのかしら…。」
襲い来る悪魔を払いながらの屋敷の捜索は困難を極めた。

イヴファルトは翼をはばたかせ、適当に開いている窓から屋敷に侵入する。
天使も天使で、人間と違う思考回路をしているのだ。
もっとも、姫天使と呼ばれていたルファンとイヴファルトは何をしても許される立場にいた。
その環境が、彼女らの行動原理に多大な影響を与えたのは間違いないが。

イヴファルトが勝手に入った屋敷に、人間や天使が多くて、驚く。
しかし、そのおかげか、イヴファルトは奇異の目で見られることもなく、堂々と屋敷内を歩いていたつもりだったが。
イヴファルトの美貌が目立っていることに気が付かない。

イヴファルトの目の前に、突然闇が現れ、悪魔が闇から落ちてきた。

「うっわ…、ここどこだろ…。」
きょろきょろと辺りを見回すその悪魔は見知った悪魔…嫉妬のアフストイ…だった。

それは、相手にとっても同じなわけで。
「げっ…あの時の天使!」
「アフストイ様、でしたわね。」
アフストイは後退りし、身構えるが、イヴファルトは両手を上にあげた。
「今は、攻撃の意志はございません。」
イヴファルトの挙動を見て、アフストイは構えをとく。

「色欲のおかたに会いたいのですけど。」
イヴファルトはアフストイにそう言った。
「会いたいっていうなら止めないけど、どうなっても知らないよ。」
ライアス以外にはドライなアフストイだった。
「覚悟はできています。そうでなければ自ら堕天なんてしてきません。」

どこから見ても清楚なお嬢様といった外見の美女である。
ユーギットがどういう反応をするのか。イヴファルトがどうなるのか。
どうでもよかったのでアフストイはイヴファルトを地下室へと連れて行くことにした。