「人間を裏切る気ですか?」
リーダーが訊くが、イブナクは即答した。
「そんなつもりはない。」

「んだば、なして、同じ悪魔を傷つけて笑っとるような悪魔の手なんか心配するだ!?その子悪魔が同じように人間を襲うようになるとは思わないだか?!」
魔法使い風の男はイブナクに詰め寄る。

「何同種でぐだぐだ言ってんだ、めんどくせぇ。」
ライアスが口をはさむが。
「「「「悪魔は引っ込んでてもらえませんか。」」」」
勇者志願者たち数名に黙れと言われて肩をすくめるライアス。

「人間に害をなす悪魔ならとっくに斬り捨ててる。僕にはそれだけの力も強さもある。」
イブナクは淡々と事実を答える。
とは言っても3人同時に相手するのは無理だけど。と心の中だけで付け加え、声には出さない。

そのとき、イブナクにはドリウスからの念話が聞こえてきた。
『面倒だったら転移で逃げるか?』
イブナクは頭の中で念じる。
『ここで逃げると、彼らの言い分を認めたことになるから。逃げられないし、攻撃もできない。ドリウス達の手を煩わす必要はない。』
念話でドリウスが笑ったように聞こえたが、イブナクは目の前の勇者志願者のリーダーと対峙したまま、動かなかった。

気まずい沈黙がしばらく流れた。
沈黙を破ったのはリーダーのほうだった。

「疑わしきは、滅します。」
リーダーが槍を構える。
魔法使い風の男は詠唱を始める。
他の勇者志願者は様子見のように見えたが、いつでも加勢できるように身構えている。

イブナクは困った。
人間を傷つける気などないのだ。
リーダーの槍先を霊銀の剣で払い、アフストイが作った加護のカードを発動させる。
魔法使い風の男が放った魔法は天界の魔法だったため、天使との混血児、またはその末裔であろう。