「もうちょっとで傲慢を殺せたのに…。」
サキマに転移させられた先で、ライアスは舌打ちする。
「わりぃな、アフストイ。」
「いやいやライアスちゃんはナイスアシストだったよ。その翼、自分のにしないの?」
アフストイにダークの翼を指さされる。

まだダークの翼を力として取り込んでいなかったライアスはダークの翼を抱きしめる。
ダークの翼は闇となってライアスに同化した。

「お。」

真名の契約をしたドリウスはライアスと力がリンクしている。
だから、ライアスが力を得た感覚を直接的に感じ取った。

サキマに一緒に転移させられた勇者志願者達はライアスを遠巻きに見ている。
ライアス達は勇者志願者達のことはすっかり眼中にない。

しかし、背後から容赦無く悪魔の翼を切り落とし、続けて悪魔の脳天を割ろうとした子悪魔を警戒するのは、勇者志願者たちとしては当然だった。
それに、悪魔達と行動している悪魔狩りの男も勇者志願者たちは警戒していた。

「ライアス、その片手斧…!」

イブナクが驚いて、ライアスから片手斧を取り上げる。
「天界のやつだ。サキマの屋敷から勝手に借りた。」
イブナクは霊銀の剣の輝きと見比べる。確かに天界の加護を受けた武器だった。
「こんなもの使って…ライアス、手は?」
「手?」
ライアスはイブナクに言われて、手を見る。
少し赤く腫れていた。

「…悪魔が…天界の武器を使って…この程度ですむはずが…。」
イブナクはライアスを見つめる。
どこからどう見ても、上級悪魔だった。

「失礼だが、悪魔狩りのおかたとお見受けしますが。」
勇者志願者のリーダー(と思われる女)がイブナクに話しかける。
「僕?悪魔狩りのイブナクだけど。何か?」
「悪魔狩り…ですよね?何故悪魔の心配などしているのですか?」
「アーヤ陛下の命令で、この者たちと行動してる。」
イブナクは何を不審がられているのかわからない様子で答える。

「違う、オラたちが聞きたいのは…!」
勇者志願者達の中で魔法使い風の中年の男が不審に思っていることを隠しもしない声でイブナクに問う。
「悪魔を狩る立場のアンタが、なして悪魔の心配なんかするだ?」

イブナクは答えられなかった。確かに、以前までは、悪魔の心配なんてしなかったのだ。

悪魔は。

イブナクにとって。

ただ、狩るだけの対象。

それだけだったはずなのに。