ライアスは頭上からサキマに近づき、サキマの脳天を割ろうとしたが、間一髪で避けられてしまった。

「インフィニタース・フラムマ!」

ライアスの斧を避けるためにできた一瞬の隙を、アフストイは見逃さなかった。
無限の蒼色の炎がサキマの腕に当たり、肉が炎に焼かれる嫌な臭いが漂った。

サキマは完全に防御する結界を詠唱し戦況を確認する。
体力を吸われ続けるアバドンと、翼を1枚失い地面に血溜まりを作っているダークの姿だった。

「くそっ!」
魔界の神を目指すつもりが、ただの成り上がり悪魔と人間相手に惨憺たる被害を出している。
「ここで死ぬわけにはいかないんだよねー。」
サキマは短くゲートの呪文を唱える。

ライアス、イブナク、ドリウス、アフストイとアーヤが集めた勇者志願者を無理矢理転移させる。

術者であるドリウスがいなくなったため、アバドンはすぐに闇のツルから解放された。
ダークは5枚の翼をひっこめ、血が出ている箇所を魔力の炎で焼く。
不可思議な顔をするサキマを見て、ダークは答える。
「血を止めるためですよ。」

「ちぇー、運が悪かったかなー。アバドン、回復したらこの屋敷の結界を強化よろ。」
「人間達に戦い方を教えたほうがよろしいかと。」
今にも死にそうな様子だが、アバドンはサキマにそう進言する。
「それ任せるわー。」
いずれにしろ、サキマ達は怪我を治す必要があり、そしてアーヤの真意を問いただす必要があった。

「あ、やっちゃった。尋問するつもりが乱入してきた人間ども、飛ばしちゃった…。」

「また捕縛したらよいかと…。」
ダークは翼の1枚と力を失った。
そのためか、屋敷に来た時のような覇気はなかった。
しかし、それでも上級悪魔だった。

命こそあるものの、傲慢のサキマは静かに怒りを溜めていた。
それほど、完全完璧にライアスの意外性にしてやられた。
サキマにとってはプライドを傷つけられる、完全完璧な敗北だった。