「させるか!」
ライアスは自らの魔力で創りだした蒼い剣と、もう一本、紅い剣を創りだしイヴファルトに斬りかかる。
イヴファルトは呪文の詠唱もなく、魔力のシールドで2刀の剣を防ぐ。
イヴファルトは短く呪文を詠唱すると、強い風を起こし、ライアスにぶつける。
ライアスの白と黒の両翼が風を受けて派手に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「いってぇ…。」
「ライアス!」
イブナクが駆け寄り、ライアスを助け起こす。
アフストイもライアスが起き攻めをくらわないように魔力のシールドで守護する。
ドリウスはライアスが斬りかかった時点で補助魔法の詠唱に入っている。
「1対1じゃないなんて卑怯ですわ。でもわたくしは負けるわけにはいきませんの。」
イヴファルトも戦う気満々だ。

「待て。」

ノアの鋭い声が響く。
普段食べ物を貪っているだけのノアのどこからこんな魔力が出てくるのかというほどのプレッシャーがその場にいる全員を襲う。

「自ら堕天してくるとは余程の覚悟もあれば実力もあるということだろう。天使の娘、ここはルファン様が住んでいた場所だ。戦うなら他の場所で戦え。」
ノアは穏やかな口調でイヴファルトに言い聞かせるように話している。
だが、怒っているようにしか見えなかった。正直、ノアを見慣れた悪魔達も、今のノアは恐い。すげー恐い。トイレに駆け込みたいくらいに。
「ルファン様は笑って亡くなられた。この城も笑って死ねる人生を送ったルファン様が建てたものだ。愛する姉の形見を壊したいのなら話は別だが。」

ライアスは直接的にはルファンを知らない。
しかし、イヴファルトにとって、ルファンは大切な姉、だったのだろう。
ライアスを始めとする悪魔勢には家族の絆というものはわからない。今後、理解することもないだろう。
イヴファルトはノアの説教に、しゅんとした様子でうつむいた。

「小娘。」
ノアが突然ライアスに話を振る。
「だいぶ上級悪魔に近づいたようだが、相手の力量を見誤るようでは話しにならんな。」
「ノア、オマエ馬鹿じゃね?悪魔が天使と1対1で戦うわけねーだろ。契約者どもを信頼してのことだ。」
「上級天使1匹くらい、1人で処理できるように精進しろ。」
ノアからの忠告だった。
「はいはい。おっさんは説教臭くてめんどくせぇなぁ。」
ライアスが心底面倒そうに適当に返事をする。
「天使の娘。魔界を手に入れる気なのはわかったが、まずはルファン様の生き様を調べてからにするがよい。七罪の力を従えるところから始めることだな。ルファン様もそうやって魔界の神になった。」
イヴファルトはべっこりと凹んでいたが、ノアの言葉を聞いて、顔を上げた。