「だから、オレ嫉妬の君とだけ、話したいの。嫉妬の君が飼ってる人間とか、中級悪魔にはぜんっぜんきょーみないわけ。」
アフストイは嫌そうな顔をして答える。
「あの人間は私が好きで飼ってる訳じゃなくてね…、ってそれはどうでもいいんだけど、どうして私だけ?」

息を吸って吐くかのように、とても自然な様子で、なんでもないことのように、サキマは次の言葉を発した。

「オレと契約しよーよ、嫉妬の君。」

アフストイは絶句した。

「嫉妬の君に損はさせないよ。」
「最初から、私とだけ契約したかったわけ?」
「んー、契約が一番得策かなぁと思って。」
サキマは言外に、契約以外の選択肢も考えていたことをほのめかす。

アフストイは慎重に言葉を選びながら答える。
「私は男とは契約しない主義なんだけどねぇ…。」
「あ、いきなり魂の契約とかオレも困るしー、血の契約か真名の契約で手を打たない?」
アフストイはどうしても乗り気になれなかった。
そもそも男に優しくしてやる趣味はないのだ。男は男でも上級悪魔だった場合は敬意くらいは払うけれども。

「傲慢のサキマ殿か、確かに、最も神の座に近いと思うし、サキマ殿と契約するのは悪い選択肢じゃないよね。」
アフストイはとりあえず、事実だけを答えた。
「でしょー?嫉妬の君、オレと契約させてあげるよ。」
言い方が偉そうである。しかし、言い方の問題ではなかった。どういう言い方をされたとしても、アフストイの中では、答えは既に出ているのだ。
アフストイは転移の術式の準備をしながら、一言で答える。

「だが断る。」

「どうして?オレが女悪魔じゃないから?」
しつこく食い下がるサキマ。
「私はライアスちゃんと契約してるのよ。どんなに土がつこうと、泥にまみれようと、ライアスちゃんが勝つって判断した結果、賭けてるのね。」
サキマの表情が突然凄味を帯びる。美形が凄むとこんなに恐い顔になるのねぇ、だとか、あ、逃げるならライアスちゃん達も連れださなきゃ、だとかを思いつつもアフストイは転移の術式の作成を急ぐ。
「嫉妬の君の判断では、オレは神になれないってわけか。」
サキマはそれだけ言うと突然殺気を発し、臨戦態勢に入る。
しかし、その瞬間、アフストイの転移の術式は完成し、サキマの目の前からアフストイが消えた。

時を同じくして、ライアス、ドリウス、イブナクも部屋から姿を消した。