「あっ、翔お坊っちゃま…。申し訳ありません、お嬢様は只今体調を崩しておられまして。大変楽しみにしてらっしゃったのですが…。」
姫梨の家に着くと、メイドの藤田さんにそう言われた。
事故にも事件にもあってはいないらしい。ホッと胸を撫で下ろした。
体調が悪いなら、メールしてくれてもよかったのにな。
姫梨のことだから忘れてたんだろう。そう考えることにした。
「本日はもうお休みになられてますので、また後日いらっしゃってください。」
「そうします。ありがとうございました。」
顔を見たかったけど、寝てるなら仕方ない。今日は帰ろう。
1度振り返って見上げて見た姫梨の部屋は、カーテンが閉まっていて、悲しいほどに真っ暗だった。
「…おやすみ。」
そう優しく呟いて、俺は家に帰った。
この時の俺は、姫梨との関係が既に崩れ始めているなんて、夢にも思ってなかったんだ…。
明日も明後日も、ずっとずっと一緒だと、2人の未来は続くんだと、本気で思ってた。

