「――楠 麻莉亜。私たちと同じ歳。」

クスノキ マリア。
頭の中で漢字に変換する。楠・・・マリア

女神のような「彼女」には、カタカナのマリアが合う。マリアは変換しないでおこう。

――マリアか・・・。相応しい名前だなぁ
あんなキレイな出で立ちで僕たちと同じ歳なんだ・・・。

「マリアって言うんだ・・・。竹田、ありがとう。でも、なんで名前なんてわかったの?」

僕は隣の女子校の美人だという情報しか竹田に与えていないはずだ。

「あー、あのね、私、あの女子校に通っている友達が何人かいてね、いろいろ聞けたの。そしたら、楠麻莉亜と同じクラスっていう友達がいて。あ、楠麻莉亜、学校じゃ美人ってかなり有名らしいよ。女子校にいるのがもったいないって。」

なるほど。

「そうだったんだ。竹田は友達多くていいね」

「え、私には山本くんと三上くんみたいな深い男の友情がかなりうらやましいよ」

「そうかなぁ。僕たちだってそんな深い友情なんて――」


「晴之ー!!数学の宿題教えてー!」
教室の扉の付近で樹がバカでかい声で僕を呼ぶ。
きっと、行間休みで教室の外に出ていた大樹は、教室に入ったら数学の宿題を広げている人が少なくないので目に入ったのだろう。

数学の授業は英語の次だ。
休み時間も残りあとわずか。
だからあわてて僕を呼んだ――こんなところか。

「やべぇよ、すっかり忘れてたわぁ。俺今の範囲全然わかんない」
そう言いながら席の近くまで来る。

「竹田、ありがとう。僕行くね」
そう言って僕は大樹の席に行く。


――「楠麻莉亜についてもう1つ大事な情報があるけど、今はまだいいかなぁ」

竹田がつぶやいた言葉は僕の耳には入らなかった。