黒木健蔵の冒険

一方、健蔵は、ここ何日か、ある目的で日比谷に通っていた。


「おじいさん、頼むわ」

昼下がり、サラリーマンが台の上に靴を差し出す。

鳥打ち帽を深くかぶった70を過ぎた老人が、その靴を磨きだす。
どこにでもあるような靴磨きの光景だった。

「おじいさん、最近、景気があまり良くないけど、この商売は、どうなんだい?」


「そうですな、この商売もあまり景気の良いもんじゃあ、ありませんよ。お客さんは、この辺にお勤めですか?」



「あぁ、柚木華製薬に勤めてる」