「あっ、そうですよね。私、白沢 優希と言います」

「俺は稲葉 拓斗ってそんな事知ってるか。よろしくね」

電話の向こうで稲葉さんは笑っている。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

と稲葉さんには見えないのに頭を下げる私。

「優希ちゃんって呼んでもいいなか?」

「はい。いいですよ」

「良かったらこの前のお礼がしたいと思ってるんだけど、優希ちゃんは都合の良い日ってあるかな?」

「えっ?わ、私はいつでも空いてます」

「俺、今週の土曜日の夜が空いてるんだけど、優希ちゃんがよければ食事でもどうかな?」

「えっ?わ、私は大丈夫ですけど稲葉さんは大丈夫なんですか?」

「俺は大丈夫だよ。優希ちゃんに道を教えて貰わなかったら着かなかったからさ。本当にあの時は助かったよ」

「お礼なんて気を使わなくてもいいんですよ。気にしないで下さい」

「俺が優希ちゃんにお礼したいから。そっちに迎えに行くけど、この前会った場所から家近いの?」

「ありがとうございます。でも、こっちまで来て貰うのは悪いですよ。私も近くまで行きましょうか?」

「車だから平気だよ!」

「そうですか?じゃーお言葉に甘えてお願いします」
「了解!で、あそこから近いの?」

「あの場所より、稲葉さんが行こうとしていた所の方が近いです」