「あんな息子がほしかったわ……」

お母さんは静かにため息をついた。


お母さん、騙されてるよ。
あれは、悪魔みたいな男なんだから。
──なんて、同じ家にいるんだから、言えるはずもないんだけど……。


「懐かしいわね。理央が裕樹君にベタ惚れだったの」

「ちょ! 昔のことなんだから、言わなくていいよ!」

裕樹君にこんなことを聞かれたら、一生、からかわれるに決まっている。


「あら、なんで」

「なんでって……。とっ、とりあえず、困るのっ!」

「そー……」

お母さんは残念そうに、表情を曇らせた。


「理央には裕樹君みたいな旦那が一番よ?」

「絶対、やだ!」

私は頭を左右にぶんぶん振って、必死に抵抗した。


あんな悪魔と結婚なんて、かんべん!
だったら、サッカー部の雄一君のほうがいいもん!


「ふあぁぁ……」

お母さんの手伝いが終わり、部屋に戻ってきた。


チラッと見ると、床にふとんを敷いて裕樹君が眠っていた。

てっきり、ベッドは奪われているかと思っていたのに結構、優しいところがあるみたい。


眠いし、そろそろ寝ようかな。


すでにパジャマに着替えてあった自分は、すぐにベッドの中に入った。


「──なぁ、理央」

え?

ベッドは壁についてあり、私は壁と向かって横になっていた。

だけど、背中は暖かくて、真後ろから裕樹君の声がする。