「あー。理央の初恋のね」

「うん」

帰り道、弥生が私が居眠りしていたときの夢を話していた。


弥生は中学で知り合った友達だから、裕樹君のことは知らない。


「どんな人になってるのかな」

「………………。にしても、マンガみたいな話だね。絶対に帰ってくるって」

弥生はオレンジに染まる空を見ながら、言う。


『帰ってくる』……。


あの約束は、10年前にしたんだっけ。

裕樹君はそう言ってくれたけど、覚えているわけがない。

彼が覚えていたら、それこそマンガのような話みたいで、現実味がわかない。


弥生と別れて、数分後に帰宅。


玄関を開けると、見慣れない男物の靴があった。

お客さんかな。


「おかえり、理央ー」

いつもだったら、ドアが開く音が聞こえると、すぐに出迎えてくれるお母さんが、今日は遅れて私を迎えた。

大事なお客さんなのかもしれない。


「ただいま。誰か、来てるの?」

「ふふー。そうなのよぉ」

何やら、うれしそうな顔で私を見る。

娘の私でさえ見たことがない、それはそれは気持ちが悪い笑みだった。


「理央も知ってる客よ」

「え? 私も……?」

「見て驚かないでね?」

お母さんはじらすように、リビングにつながる扉をゆっくりと開けた。