『裕樹君、行っちゃヤだよ……』


『ごめんね、理央ちゃん。僕、行かなきゃ』


『……また会える?』


『大丈夫。絶対、会えるよ。そしたら僕、理央ちゃんに伝えたいことがあるんだ』


『今じゃダメなの?』


『うん。……心配しないで。理央ちゃんのとこに、絶対に帰って来るから』


 ──幼い頃、近所に住んでた男の子、柿原裕樹君。


ご両親の都合で、突然、引っ越すことになった。


当時、裕樹君はとても優しかった。


彼は、私の初恋の男の子……。


今、どうしているかな?


「──オイ、森山。起きろ!」

「いたっ!」

頭に、衝撃が走った。


見上げると、担任が分厚い地理の教科書を手に、冷たい目で見下ろしてる。


「珍しいな、森山が居眠りなんて」

「す、すみません」

そうだ。
今、地理の授業だったんだ……。


そう認識した途端、ぼんやりとした視界が鮮明化する。


「まあ、無理はするな。……授業、再開するぞー」

担任の先生は、教卓の前に戻った。


私は窓越しに雲一つないきれいな青空を見つめ、小さいままの裕樹君を青いキャンバスに映す。


裕樹君、か……。
今、何してるかな?
私のこと、覚えてるかな……。