描かれた夏風

「私は親戚たちからの噂で聞いただけなんだけど、事故が起こって。智のご両親の死に方っていうのが、結構なものだったらしいのよね。智の目の前で、その」

 アスカ先輩はどこか遠くを見て、話しづらそうに言った。

「……あの時の猫みたいな。そんな感じだったそうよ」

 ――両親が事故で死んだ。まだ幼い子どもの頃に。

 数日前のルカみたいに、目の前で、ぐしょりと潰れて。

 私は後頭部を殴られたような衝撃を感じた。

 両親が死に、残された唯一の家族である妹。

 その名を冠した猫が、あんなにも無惨な死に方をした。

(あの時、智先輩はどんな気持ちだったんだろう)

 昔、飼っていたハムスターの仔に友達の名をつけようとして叱られたことがある。

 ペットはすぐに死んでしまうから。

 死んでしまうのは、とても縁起が悪いから。

「それで智先輩は、アスカ先輩の家に」

「両親同士の仲がよかったからね。智は元々手がかからない子だし、上手くやってるわ。家事でも何でも器用にこなすから、実の娘である私より気に入られてるくらいよ」

 アスカ先輩が静かな微笑みを浮かべて言う。