そして、道を進んだその先で。

 才能がないと分かってしまったら、どうすればいいのだろう。

 支払った努力の量が大きければ大きいほど、身動きが取れなくなってしまう。

 アスカの場合は、支払ったものがそれまでの人生全部だった。

 家に帰ってもアスカは何も言わない。

 重たいものを背負った体が、扉の向こうに消えた。

 隣にある自分の部屋に帰ると、薄い壁を通して鼻をすする音が聞こえてくる。

 アスカはやっぱり負けず嫌いだ。

 嫌いな人間が隣の部屋にいるとわかっているから、声を出して泣いたりしない。

 溜め息をこぼすと、アスカにもわかるように大きな音を立てて部屋を出た。

 階段を下りるときに背後から押し殺したような泣き声が聞こえてくる。

 自分が階下にいくと、やがてそれはどんどん大きくなっていった。

 自分が近くにいるとアスカは満足に泣くこともできないらしい。

 存在自体が迷惑だと言われたみたいで、少し心が痛んだ。

 ――友絵ちゃん。

 何気なく言った名でアスカがあんなに動揺するなんて思わなかった。

 アスカは西口友絵に……西口友絵の才能に嫉妬しているという。