――私が、『誰に』向かって嫉妬しているように見えるの?

 アスカからそう問われて、答えるべきか迷った。

 それを言った時、アスカの気持ちにどんな波風が立つのか予測できない。

 それでも、あえて言うことにした。


 ――友絵ちゃん。


 家や廊下ですれ違うたびに見ている自分だからわかる。

 アスカは西口友絵に嫉妬しているのだ。

 うつむいたまま、アスカはおし黙って歩いている。

 覗きこんだ表情はどこか険しくて、今にも泣き出しそうだった。


 ――才能がない、と。


 アスカは担当の先生からそう言われたらしい。

 絵の道一筋で生きてきたアスカにとって、その言葉は彼女自体を否定する呪詛だった。

 芸術やスポーツの才能は、目に見えないからややこしいと思う。

 目に見えていたら話は簡単だ。

 才能があればその道を進めばいいし、ないなら他の道を探せばいい。

 天才とは99%の努力と1%の才能だという。

 99%の努力をしなければ、1%の才能が自分にあるのかどうか分からない。

 そんな暗闇の中でも、人は努力をし続けなくてはならないのだ。