描かれた夏風

 彼女のそういう謙虚な態度はとても好ましいように思う。

 そんな彼女だから、周りの人だけでなく芸術からも愛されているのかもしれない。

「それにしても、大きなキャンバスだねー」

「はい、文化祭の予選に出品する作品なんです」

 彼女は文化祭での展示代表も目指しますと言って、はにかんだ笑みを浮かべる。

 万が一入賞してしまえば、更に嫌がらせが酷くなるかもしれない。

 大丈夫かと尋ねれば、彼女はしばらく考えてから答えた。

「だから本気を出さないなんて、そんなの絵をバカにしてます」

 いつだって真剣勝負で、ただただ純粋に上を目指す。

 それが芸術の道を志す者の心構えなのだろう。

「無理しないように頑張ってね。見せてほしいな、完成したらでいいから。――文化祭に妹を連れて来ようと思うから、そのときにでも」

「はい、完成したらきっと! 約束ですよ」

 彼女の澄んだ笑みを見ていると、自分の最悪なところが浮き彫りになる気がする。

 どうしようもなく腹が立った。

 彼女に対してではなく、自分自身に。

 ――どうしてできもしない約束をしてしまうのだろう、と。