「私は、私は智先輩に会いたいですッ!」

 大好きな人の背中に向かって、私は一生分の勇気を振り絞って言った。

 視界を滲ませた透明の雫は、胸を苦しめる想いの結晶だ。

 私は前を見据えて静かに口を開く。

 アスカ先輩や智先輩みたいに格好よくない。

 綺麗じゃないし、輝いてもいない。

 けれども気持ちが届くようにと精一杯の力を込めた、等身大の言葉たち。

「私は智先輩のことが好きです。大好きです。それじゃ、理由になりませんか?」

 震える声で言い切った私を、智先輩は唇をかみしめて見ていた。

 ――沈黙。

 やがて智先輩は寂しそうに微笑んだ。

 そしてどこか険しい表情で、悲しそうに言う。

「駄目だよ。理由にならない」

 智先輩が口にした静かな言葉が、胸の奥深くにまで突き刺さった。

 痛い。

 とても痛い。

 私は足元がフラリとぐらつくのを感じた。

「……ごめんね、西口さん」

 申し訳なさそうに智先輩が言うのを、私は途中で遮る。

「こちらこそ、ごめんなさい。こんなこと言って、迷惑ですよね」

 愛想笑いが下手だな、と自分でも思った。