「だからね。最近ちょっと、私の無意識が反抗を起こしてるの」

「無意識、ですか?」

 思いがけない言葉に、私は目を丸くする。

「――そう。絵を描こうとしても、描けなくなっちゃった」

 ひらひらと右手を振りながら、アスカ先輩は笑顔で言った。

「描きたいはずなのにね。描かなきゃって思うと、体が動かなくなるの」

 私は顔の筋肉が急に引きつっていくのを感じる。

 有名な画伯を父に持つアスカ先輩は、周りからの多大な期待を背負っていた。

 プレッシャーが重荷になって、理想と現実の差に心が縛りつけられて。

 アスカ先輩の無意識は、自分を守るために絵を拒絶したのだ。

 私には、どんな言葉をかければいいのか判らない。

 何を言っても傷つけてしまいそうだと思った。

 アスカ先輩は自嘲するかのように笑っている。

 こんなにも泣きそうな笑顔を見るのは初めてだった。

 口にするだけでもつらいであろうことを、他の誰にでもない私に相談してくれたのだ。

 ――智先輩なら。

 智先輩なら、何と言うだろう?