描かれた夏風

「聞いてたよ。よく言った。頑張ったね」

 顔が赤くなってしまうのは、誉められることに慣れていないからだろうか。

 私が何と言えばいいか迷っていると、クラスメートの女子が苛立った声を上げた。

「離してよ……っ」

 つかまれた手を振り払おうとするが、智先輩は手を離そうとしない。

 それどころか、手首が折れそうになるほどの力を込めたのだった。

「いたっ、痛い!」

 涙目になったクラスメートを見て、私は智先輩を止めようとする。

 けれど智先輩の表情を見上げて、何も言えなくなった。

 いつも私を安心させてくれる和やかな笑みの存在は欠片もない。

「――君らみたいな害虫のせいで、この子がどれだけ苦しんでいたか……知ってる?」

 ズシリと重い緊迫感をまとった、低くて鋭い言葉。

 冷たい瞳の中で揺らめくのは、研ぎ澄まされた青い炎。

 別人みたいな智先輩を見て、背筋にゾクリと寒気が走った。

「知らないだろうね、知ろうともしないんだ」

「せ、先輩……!」

「お前らみたいな他人を妬むことしか能のない矮小な人間がいるから」

 そう言うと智先輩は、つかんだ手首をひねり上げる。