描かれた夏風

「なにこいつ。超ムカつくんだけど……!」

 逆上した一人に襟元をつかまれた。でも私はひるまない。ひるんでなんかあげない。

「誰が何と言おうとも、春の優秀賞は実力で取った。アスカ先輩じゃなくて私が! 私の絵にあってあなたたちの絵にはないものがあるんだから!」

 そう。智先輩が教えてくれた。

 私には私にしか描けないものがある。だから胸を張っていればいいんだ。

 こんな人たちの僻みなんかには負けない……!

「うるさいっ」

 一人のクラスメートが勢いよく手を振り上げた。

 殴られることを覚悟して、私は歯を食いしばる。

 目をつむって、手でとっさに頭をかばった。

 しかし、いつまで経っても予想した衝撃はやってこない。

 私は恐る恐る瞳を開けてみた。

「女の子が真っ昼間から集団暴力? 怖いなあー」

 その人はクラスメートの振り上げた手をつかんだまま、のんびりと笑う。

 女子たちよりも頭一つ高い背。昼寝から起きたばかりらしく、髪が少し跳ねていた。

「さ、智先輩っ」

 私がその名前を呼ぶと、智先輩は優しく微笑んで言う。