描かれた夏風

「手に入れるのがとっても難しいって、一年生の中では伝説ですよ! 私、一度も見たことなかったです」

 伝説のパンを恐る恐る拝む私に、智先輩が神のようなことを言ってくれる。

「じゃあ、半分あげようか?」

 智先輩の穏やかな笑顔に、後光が差して見えた。

 私は首が取れそうな勢いで何度もうなずく。

 智先輩は無造作にパンを半分に割って、どちらかといえば大きい方を差し出してくれた。

「でも、でも本当にいいんですかっ?」

「いいよー。友絵ちゃんに食べてもらえるパンは幸せだと思うし」

「へ?」

「友絵ちゃんはいつも、すごくおいしそうに、幸せそうに食べてるから」

 私は単純だから、おいしいという気持ちがそのまま顔に出ているのだろう。

 そこで一旦切ると、智先輩はゆっくり言葉を続けた。

「幸せそうに食べてもらえたら、食べられる方も作ってくれた購買のおばさんも嬉しいと思うよ」

 変わった視点だ。智先輩はたまに、すごく不思議なものの言い方をする。

 うまく言えないけれど、どこか私の感覚とはズレたところがあった。

「嬉しいの……かな? よくわかんないけど、そうかもしれません」