描かれた夏風

「突然ごめん。でも友絵さんには知っていてほしくて」

 水瀬君はそこでいったん言葉を区切った。

「そういうわけで、オレはあいつに負い目があるんだ。もしもオレがいなかったら、智は家族をなくさずにすんだ。……それか、オレが一人で黙って死んでれば」

「そんな、こと」

 そんな、悲しいことを言わないでほしい。

 水瀬君に負い目ができて、二人の関係が微妙に変わってしまった。

 そのことも智先輩にとっては悲しかったんじゃないだろうか。

 私がそう思っていると、水瀬君が不意に口を開いた。

「――じゃあオレはそろそろ帰るぜ」

「え? あ、はい」

「友絵さんと話せてよかった。これからも頑張れ」

 水瀬君は笑顔で軽く手を振る。

 文化祭のついでではなく、本当に智先輩に呼び出されて来たらしい。

 私の願いのためにわざわざ来てもらって申し訳なく思った。

 礼を告げようと空気を吸えば、後ろから穏やかな声がかけられる。

「あ、いたいた。友絵ちゃんだ」

 智先輩が駆け足気味に角の向こうから現れた。

 友絵ちゃんという呼び方が嬉しくて、くすぐったい。