「それが……今回、調子が悪くて作品を仕上げられなかったんだ」

「……」

 先生は言いづらそうに言葉を区切りながら、信じられないことを私に告げた。

「だから学校長との相談の結果、こういうことになった。西口には悪いと思っているよ」

 みんなの期待の星、アスカ先輩は今回不調だった。

 だから私の絵を――適当な生徒の絵を見繕って、アスカ先輩の名で展示したという。

(何それ……!)

 目の前がぐらりと怒りに揺らいだ。

「実は、春の優秀賞で西口の絵を強引に推したのは俺なんだ」

「え? 先生が」

「まあな。でも生徒や保護者からのクレームが殺到した。なんせ、野間野は彼の有名画伯の娘だからな。学校側としても、今回野間野アスカに受賞させないわけにはいかないんだ。体裁というか、立場上な。お前は賢いからわかるだろう」

「そんな。だからって何でこんなことを」

 大人の事情なんて、さっぱり理解できなかった。

「でも、アスカ先輩は? アスカ先輩がこんなことを許すはず」

「すまない。わかってくれ、西口」

 申し訳なさそうに先生は頭を下げる。